神保町ファイトクラブ

趣味に全力で生きる三人、黒田よわし(@jack_kuroda)、アシェンデン(@bitsecond)、Xuniが新旧問わず本・映画・その他の感想などを書いています。

平和と幸福よ、さらば【本】【武器よ、さらば】

 今回は新刊ではなくて古典、アーネスト・ヘミングウェイの【武器よさらば】を紹介しよう。

 

この【武器よさらば】の著者、ヘミングウェイは20世紀アメリカ文学の巨匠。老人と海と言えば、ピンとくる方もいるかも知れない。

 

あらすじ

WW1【第一次世界大戦】でイタリア軍所属のアメリカ人フレデリックはイタリア各地を転戦していたが、ドイツ軍の砲撃で重傷を負い、入院先の看護婦キャサリンと恋に落ちる。しかし、状況は誰もが望むほど展開にはならない。絶望的な状況下でドイツ軍が迫る中、2人は平和と幸福を求めて、スイスに向かう。

 

舞台はWW1なので、背景知識が無いと判りにくいかもしれない。あの戦争が人類が直面した初めての総力戦とは、よくある歴史上の解釈だ。 

まだ突撃が主流だったあの時代、本当に多くの兵士が機関銃と砲撃の掃射で敵味方問わず死屍累々を築き上げていた。【ここら辺はバーバラ・W・タックマンの「八月の砲声」に詳しい。オススメ。】

 

本当にWW1って冗談かと思えるくらい民間人含めて、死者が出る。突撃したら機関銃掃射されて生き残ったのは師団で3人だけとか、スパイ疑惑のある村の住人を全員銃殺したとか。近代戦の酷さを物語る。

 

さて本編の解説をしよう。

アメリカ人フレデリックイタリア軍に従軍して、各地を転戦するが碌な目には合わない。ドイツ軍の砲撃を受けて、両脚を吹き飛ばされる。脱走兵取り締まりの憲兵には、銃殺されかかる。河床で殆ど流れ作業的に行われる銃殺を見て、フレデリックは川に飛び込み、逃亡、難を逃れる。将校クラスの人間、例えば中佐とかがあっさり銃殺される。スパイ狩りとはいえ、なんて非効率なんだ。

 

凄惨な日常の中、フレデリックが心底幸福と安寧を感じられるのはイギリス人の恋人キャサリンといるときだけ。無論、2人は愛し合い、深い関係になって妊娠もする。2人でいるときだけ、血みどろな残酷な世界を忘れることが出来た。

 

【ここら辺で物凄く死亡フラグが立ちまくることを俺は感じていた。】

 

WW1でアメリカが参戦するも、状況は良くならず、前線はドイツ軍に押されている。おまけにフレデリックは前線から脱走したため軍にも戻れない。キャサリンのお腹は日に日に大きくなる。2人は戦火の及ばないスイスへの亡命を決意する。安心な生活と2人と、そして赤ん坊の未来を手に入れるため。

 

結末はここでは書かない。というのも、平和なスイスでの生活には悲惨な終止符が打たれるからで、その打たれ方にヘミングウェイなりの戦争観が凝縮されている。それは是非とも読んであなたに感じて、考えて欲しい。

 

戦争で最後に立つものは、墓標だけである。それ以外はない。ヘミングウェイがWW1の従軍歴があるからこそ、書けた作品なのだろう。

 

なお文体はヘミングウェイらしく、簡潔で読みやすい。なかなかの長編だけれども、そのページ数の割には長く感じなかった。海外の小説に挑戦してみたい人にはこの機におすすめである。

またこの本も、名作だけれども、ついでに八月の砲声も読んでくださいな。

 

 

武器よさらば (新潮文庫)

武器よさらば (新潮文庫)

 

 

 

 

八月の砲声 上 (ちくま学芸文庫)

八月の砲声 上 (ちくま学芸文庫)

 

 レヴュアー:アシェンデン