神保町ファイトクラブ

趣味に全力で生きる三人、黒田よわし(@jack_kuroda)、アシェンデン(@bitsecond)、Xuniが新旧問わず本・映画・その他の感想などを書いています。

【映画】【ウィンドリバー】雪山の裁判官

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 夜の帳が降りた、巌のような冷徹な寒さで降りしきる雪の中、足跡が点々と続いている。これを刻んだ人間は、焦燥に駆られていたのだろう。足跡が安定していない。そして、何かに抗うようにして倒れ込んだ後の側には、血痕が雪の白さに映えている。迫り来る死と極寒に払い除けて、懸命に立ち上がったのか、また足跡が続く。
 しかし、厳しい自然は弱い人間を許さない。足跡と血痕の感覚が短くなってゆく。雪の白さより、血化粧が多くなってゆく。
 そして、死が彼女を迎えに来たのだろう。彼女は最後の乾坤一擲を振り絞り、事切れた。目を見開いたまま、峻厳な雪山を目にして、最後を迎えた。独り凍えて。
 ここまで少女の死を足跡から死体まで思いめぐらした雪山のハンターは独りごちる。
 「なぜこの土地では少女ばかり殺されるのか。」
 山は答えなかった。

 


 前作で引き絞るような緊張感で麻薬戦争をスリリングに描ききった「ボーダー・ライン」を作ったテイラー・シェリダンの新作とあっては、見逃すわけにはいかなかった本作だけれども、その価値は十二分にあった。

 

 

 冒頭に描いた(小説調でちょっと恥ずかしいけれども)雪と静寂に閉ざされたワイオミング州で暴行された少女の亡骸をハンターのコリー(ジェレミー・レナー)が発見したことから、物語の幕が開ける。集落は当然、静けさに似合わぬ少女の死に動揺して犯人を捜す。しかし、ここは広大なネイティブアメリカンの保留地。当該の地区には警官が6人しかおらず(!!)、しかも悪いことに、応援にきた女性のFBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)はずぶの素人で、防寒装備もロクに持っていない。頼りになるのは、雪山でハンターを生業としているコリーだけ。
 少女の亡骸と足跡以外には謎と証拠は雪山の白さを分け入って探すしかない。ジェーンは力不足を実感してコリーと組み、果てしない白さと厳しさの中で奮闘する。

 

 

 ボーダーラインでも感じていただけただろうが、本作の通湊低音には異様な緊張感と恐怖がある。冬のワイオミング州は時でさえ凍てつきそうな、山々が連なる。不用意に山に入ると、迷宮のような木々と峻厳な高低差が行く手を阻む。死体を隠すにはもちろん、人間や彼の人間性をゆっくりと殺してゆく。弱い人間は生きて行けないのだ。事件を通して、誰もが緩やかに謎と悲劇に殺されてゆく。その情景をカメラ通して、冷酷に見せてゆく。

 しかし有能なハンターであるコリーとジェーンは警察と協力して、謎を開かしてゆく。犯人は狡猾で、少人数の警察とジェーンに深手を負わせる。だが、コリーには通用しない。山よりも弱い複数の犯人を簡単に撃ち殺す。撃ち漏らした真犯人の最後の一人を雪山に追いつめ、やがて対面する。犯人は武器もなく、薄着で凍死しそうだ。だがコリーは撃たない。コリーにはある過去があるからだ。真実を吐かせてコリーは、やがて言う。
 「おまえの裁きは山に委ねる。」
 この主人公の選択を是非とも劇場で観て欲しい。

 

 
 本作は一級のサスペンスであることは間違いないけれども、別の見方をすれば現代の西部劇ともとれる描写がある。ハンターのコリーは一匹狼で、誰の指図も受けない。さらには、自分の信念を貫き通すためには司法やモラルさえ無視してしまう。さらには、アメリカという土地柄、自己防衛が適用されやすいこともあるが自分の判断で、犯人を斃してゆく。司法よりも信念で切り開いてゆく彼の姿は、古き良き開拓時代のアメリカを思い起こさせる。(さすがにレバーアクションのライフルはやりすぎではと思ったが、途方もなく格好良いので、許す。100点!!

 

 

 正義が通りを歩いていた時代である、西部劇。しかしそれにありがちな、痛快さだけではなく本作にはストイックなダンディズムと、怜悧なリアリズムが峻厳な山々で研がれている。その雰囲気を現代に復帰させた、まさに一級品のサスペンスである。サスペンス好きは絶対に見るんだ。

 

PS

主演のジェレミー・レナーが狙撃するシーンが有るのだが、なんだかやけにデジャブだなと思ったら、彼が主演の「ボーン・レガシー」でも雪山での狙撃シーンがあったことを思い出した。さすがはトレッドストーン計画被験者は一味違う。(違)

 

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